古い原発だと何が問題か。先にも述べたように構造的、材料工学的な稚拙さはもちろんあるが、炉を構成する金属が劣化していってしまうことが大きな問題として挙げられる。原子炉は大きな圧力鍋のようなもので、炉の中は高温、高圧の状態が維持されている。熱は存分に活用されるべく、なるべく外に出さないように工夫が練られている。ここまでは非常に納得のいく、効率的な運用に思われるが、実はこの考え自体が危うさを秘めているのだ。
冷たいガラスコップに熱湯を注ぐとパリッと割れてしまうことがある。温度の差があると力が発生して素材を膨張、収縮させてしまうからだ。同様に原子炉でも高温の水が循環しているし、炉心はとんでもない温度に達している。冷却材は冷却を目的としているのだから冷たい。炉の内外温度差、内部を循環する水の温度差で各所に力が加わり激しく伸び縮みし、結果、金属が粘性を失っていくことにつながる。スプーンを曲げ伸ばしし続けたら折れてしまうのと同じ理屈だ。もちろん、原子炉は非常に高度な研究の末に決定された原料でつくられているため、非常に丈夫ではあるのだが、それでも力を加え続ければ朽ちるのが道理である。
これが、いわゆる熱応力による金属疲労の問題だ。古い原発は、激しい環境にさらされ続けているために、積み重なった疲労がときとしてヒビ(クラック)として現れてくる。そのヒビが致命的な場所で起これば、大惨事につながることもあり得るのである。たかが温度の問題とあなどってはいけない。実際に玄海原発では蒸気発生装置で幾度となく細管が損傷している(発表された原因は応力腐食割れなどとされている)。細管に限らず、例えばバルブやパイプとの接着面、溶接面など複雑な形をしたところは熱応力の計算が難しいらしい。強い負荷がかかる釜(炉)の中で起こり得ることを正確に把握することは困難なのである。
このことは原発の元設計士であるが方の著書「原発はなぜ危険か―元設計技師の証言 (岩波新書)」に詳しく書かれてある。
参考:細管破断の頻度は年々減少しており、近年では大きなトラブルはほぼなくなっているが、運転開始当初は目も当てられないほどトラブル続きだったことが分かる。九州電力ホームページ内の玄海原子力発電所のトラブル紹介を参考にしてほしい。
URL:http://www.kyuden.co.jp/genkai_history_trouble.html
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